メジャーデビュー10周年、国民的バンドback numberの定番ソングを紹介

（2013年6月リリースのシングル曲）

自身には程遠いもの、憧れてばかりで手に入れられないものを表す慣用句「高嶺の花」になぞらえて、片思いの心情を歌ったアッパーチューン。「君」の恋人像を勝手に作り上げるなど、脳内で妄想を繰り広げ、勝手に落ち込む「僕」の様子をコミカルに描いています。清水の自虐精神が表れたワードは多々ありますが、例えば「海に誘う勇気も車もない」というラインは単に語呂がいいだけでなく、内陸に位置する群馬県出身の彼のバックグラウンドが反映されています。蔦谷好位置プロデュースのポップなサウンドは当時の彼らにとって新境地でしたが、「高嶺の花子さん」は代表曲の1つとなりました。

（2015年11月リリースのシングル曲）

王道に真っ向から向き合った、タイトル通りのクリスマスソング。きらびやかなサウンド、心の中で独り言をつぶやくような歌詞、孤独感に寄り添うバンドサウンドから、聖夜の街を1人歩く「僕」の姿が目に浮かぶようです。「君が好きだ」とひと言でビシッと伝えるのではなく、「でもこんな事を伝えたら格好悪いし 長くなるだけだからまとめるよ 君が好きだ」と、ほかのソングライターならばカットしそうなところも全部書いてしまうのが清水依与吏流。それによって、「君が好きだ」の純度の高さがより際立っています。シンプルな答えに一発でたどり着けない人の心と同じように、言葉数を増やすことで逡巡を表現するという手法は、今や彼の代名詞的となりつつあります。

（2016年11月リリースのシングル曲）

先に紹介した3曲とは異なり、女性の一人称で書かれたバラード。関係を断ち切り、別れることを選んだ「私」の心の声が、ときにしゃくりを用いるボーカルによって、じっくりと歌い上げられています。歌い出しは「さよならが喉の奥につっかえてしまって 咳をするみたいにありがとうって言ったの 次の言葉はどこかとポケットを探しても 見つかるのはあなたを好きな私だけ」と触覚のイメージをも喚起させるフレーズ。また、こんなにも切ない曲を「ハッピーエンド」と名付けることでさらに悲しみを引き立たせています。清水によるラストのサビの歌唱、特に「離さないで」の部分には胸に迫るものがあります。

（2018年11月リリースのシングル曲）

ささやかながらも温かい日常を描いた1曲。「花は風を待って 月が夜を照らすのと同じように」といった比喩を用いながら、人生の“片割れ”に「僕に君なんだ」（ラストは「君には僕なんだ」）と伝える歌詞は、恋愛だけではなく、この世界に存在するさまざまなコンビ、チームのテーマソングになり得ます。「オールドファッション（old-fashioned）」は「古風な」と和訳できる語ですが、この言葉を聞いてドーナツの種類を思い浮かべる人も少なくないでしょう。そんなタイトルの仕掛けを回収する展開にも注目してみてください。

（2019年2月リリースのシングル曲）

哀愁漂うギターから始まるスローバラード。日付けが変わり、1つ歳をとった夜に「ハッピーバースデー 片想いの俺」とつぶやくという、ある意味自虐的な片思いソングです。ひと口に片思いと言っても「高嶺の花子さん」などとは違い、この曲は妄想が介入する余地がないほど寂しさをはらんでいます。地声とファルセットの両方を使うことでため息のような流れを再現する「ああそうか そうだよな」のラインや、ファルセットをメインとした落ちサビのか細い声は、報われない恋を知った心を表現しているようです。

（2021年8月配信リリースのシングル曲）

2020年8月、群馬県で開催予定だったインターハイ（全国高等学校総合体育大会）がコロナ禍で中止となったことを受けて制作された楽曲。メジャーコードの明るい響きに乗せて、喜びの陰にある悲しみ、悲しみの陰にある喜びを歌うことで、前向きになれない日々を否定しないまま、“確かに光はあるはずだ”と伝えています。「心は誰にも見えないのだから 見えるものよりも大事にするといい」というフレーズはシンプルながら本質的です。なお、この曲は、YouTubeでの公開から1年の時を経て、2021年8月に配信シングルとしてリリースされました。YouTubeのコメント欄に寄せられた言葉の数々から、すでに多くの人にとっての大切な曲になっていることが読み取れます。